イジワル同期とスイートライフ
「ドラフトを拝見しましたが、あのままだと海外の特約店には通じません。商品名が輸出名になっていなかったり、国内専用ラインの話が入っていたり」

「…わかりました」

「ほかに海外営業さんから見て、なにか懸念はありますか」



私の投げた質問に、久住くんがうーんと考える。



「いや、現時点で思いつくものは潰せていると思います」

「じゃあ今後も都度都度、ご指摘いただくということで」

「ですね、情報共有させてください」



そこで昼のチャイムが鳴った。

週一のこの定例会は、午後も続く。

6名いた参加者は、凝った肩をほぐしながら立ち上がり、先ほどまでのちょっとした険悪さを払い落とすように、どこ行きますかと雑談を始めた。

久住くんも、資料を机に伏せて腰を上げる。

私は一瞬、別行動をとることを考えたものの、それを見透かしたような視線を彼から投げられたので、おとなしく同行した。



「悪かったな、ゆうべ」



近所の定食屋に行ったところ、6名掛けがあいていなかったため、私と久住くんだけが離れた席に座ることになった。

席に着くなり彼がそう切り出したので、驚いてしまう。

会議の合間の昼休みに持ち出す話なのか、これは。

とはいえ今の私たちがほかの話題を探すのもまあ、白々しくはある。

久住くんはおしぼりで手を拭きながら、壁の品書きを眺めている。

さっぱりと整った横顔。

特に飛び抜けて長身というわけではないけれど、姿勢がいいせいか、すらっとした印象を与えるバランスのとれた身体つき。

思っていたより筋肉はしっかりついていた。

ほどよく締まっていて、綺麗だった。



「ううん、こっちこそ」

「六条(ろくじょう)は覚えてる? その、経緯っていうか」

「久住くんは忘れたわけ?」

「いや、覚えてる」



もしかしたらまだ眠いのかもしれない。

もとから落ち着いたタイプだけど、今日は特にぼんやりしているように見える。

頬杖をついたまま、「野菜炒め定食」と言葉少なに店員さんに注文し、もはや考えるのが面倒だった私は、同じものをオーダーした。

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