イジワル同期とスイートライフ
機嫌よさげに口笛を吹きながら、スーツを脱ぎはじめる。

渡したハンガーを、受け取ると見せかけてぐいと引っ張り、よろけた私の頬に陽気なキスをした。

なんだこのテンション、気持ち悪い。



「いい部屋が見つかったの?」

「うん」



きれい好きの彼は、シャワーを浴びることにしたらしい。

ワイシャツを脱ぎながらバスルームに消える。

…見つかったのか。

再び開いた文庫本の内容が、まったく頭に入ってこなくなった。



「…どのへん?」

「前いたとこの、ふた駅手前」

「いつ入居?」



ザー、という水音が返ってきて、おい、と思った。

もう少し、積極的に情報をくれてもいいんじゃないの。

バスルームまで追いかけてやろうかと思ったけれど、はしたないのでやめる。

そろそろ寝るかと文庫をテーブルに置いて、ベッドカバーを剥がしていると、久住くんが出てくる音がした。

そのまま部屋に入ってきたので、どうしたのかと振り向きかけたところにいきなり抱きつかれ、突っ伏すようにベッドに倒れ込んだ。



「ちょっと!」

「お前、肉ついたんじゃない?」

「誰のせいよ」



後ろから腰を抱かれる恰好で、脇腹のあたりを揉まれ、じたばたと暴れる。

確かに最近、ちょっと身体の線が緩んだ気がする。

久住くんと暮らすようになってから、一緒に飲み食いして帰ることが増えたのが原因だ、絶対。



「脂肪を人のせいにするとか斬新だな」

「もう締めのラーメンなんて二度とつきあわないから」

「冷たい奴」

「勝手なこと言わないでよ!」



久住くん、全然身体を拭いていないじゃないか、もう。

濡れた髪から、冷たいしずくが首に垂れてくる。

身体をよじって拘束から抜け出し、枕にかけていたバスタオルを取って、びしょびしょの頭を拭いた。

手っ取り早く腰にタオルを巻きました、という恰好の久住くんは、雑な手つきに顔をしかめながらも、くすくす笑ってされるがままになっている。

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