イジワル同期とスイートライフ
「よく考えてよ、久住くんは海外営業部のホープで、同期内でも出世頭で、これから結婚適齢期を迎えるわけ」



久住くんはうなずかず、相槌も打たず、慎重に耳だけ傾けている。

こういう抜け目のない姿勢が、仕事で成功してきた秘訣なんだろうとなんとなく感じた。



「一方、私はしがない国内営業部で、営業企画なんていう裏方部署で、影の薄いただの一女性社員なわけよ」

「なんでそこまで自分を卑下すんの」

「事実を言ってるだけ」

「所属なんか関係あるか? 俺、お前の仕事の仕方、けっこう好きだと思ったよ、冷静だし合理的だし、一緒に来てるあの女の先輩より全然いいぜ」



自分でもびっくりしたことに、私はその言葉に、激しく心を揺さぶられた。

嬉しくて。

言ったのがほかでもない久住くんであるのもまた、誇らしさに一役買って。



「ありがとう…」

「礼言われることじゃないけど。で、どう返事に繋がんの」

「まあ仕事ぶりとかの話は、置いといて」

「持ち出したのはそっちで、関係ねえっつったのは、俺だ」



なめてんのか、といい加減業を煮やしたらしい彼は、テーブルに腕をついて、正面から私をにらんだ。



「嫌じゃない、でもぐずぐずオーケーもしないって、話進める気あんのかよ、真面目に考えろよ」

「いや、だから」

「そうやって延々迷う気なら、選択肢与えるのやめるぜ、もう」

「やめるって…」



声の調子がどんどん不穏になってきて、私はさすがに怯んだ。

普通に、怖いよ。

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