人間嫌いの小説家の嘘と本当

言葉にならない声が大分離れた後ろから聞こえ振り返る。

膝に手を置き、息を切らしている男がひとり。
この姿をファンの子たちが見たら、嘆き悲しむだろうなぁ。



「もう……だから、付いてこなくていいって言ったのに」



私は来た道を戻り、腰に手を当てながら彼の前に仁王立ちをし大きく溜息を吐く。
事実は小説より奇なり――正に、この言葉に尽きる。



「っ、るさい。俺だって、たまには、走りたく、なったんだ」



肩で息をし額から流れる汗を拭いながら、嘘が見え見えの言葉を吐く侑李。

昨夜だって、しれっと私のベッドに潜り込んで来てたし、部屋を出ていこうとしたら、慌てて付いてこようとする。

いったい何がしたいのか、分からない。
文句を何度言っても暖簾に腕押し状態。

何を言っても無駄だと理解して、最近は諦めモード。
これが私のことを心配してとかだったら良いのになぁ。

時々どこまでか本当で、どこからか嘘なのか分からない。
いつも仮面を被っているように見えて少し悲しくなる。

この先、彼が素顔のままの自分を曝け出してくれる日が来るだろうか。

< 121 / 323 >

この作品をシェア

pagetop