人間嫌いの小説家の嘘と本当

招かざる過去


「蒼井、口の淵に白い粉付いてる」



私の隣に座ってシュークリームを頬張っている侑李。
何故か物凄く上機嫌だ。

彼の向かい側には、櫻井さんが座って上品にフォークを使って食べている。

普段なら、従者である櫻井さんが侑李と一緒のテーブルで食べるなんてしない。
だけど今回は侑李が「硬い事言うなよ」と、無理を言ったから渋々了承して今に至る。

なんだかんだ言っても、櫻井さんも侑李には甘い。



「え、どこ?」



左側を手で擦ってみても、砂糖のザラつきを感じない。



「そっちじゃない、反対側」



くいっと、顎を持たれ侑李の方へ顔を向けさせられると、細く長い指が優しく右側の唇の端をなぞり、そのまま自分の口へと運んだ。

チラリと口元からのぞく赤い舌。それが彼の指を舐めていく。



「甘いな」

「っ、ありがと……」


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