シークレットポイズン
好きな人、いるんだ
* * *

気付けば夏休みが近付く7月。エアコンが完備されていない教室は地獄そのものだ。子供達の体温は高く、できれば近づいてほしいものではない。

「あ、こんにちは!どうぞー!」
「はい。よろしくお願いします。」

夏休み前の保護者面談の時期である。面談2日目。扇風機なんて何の意味もないくらいの暑さである。

「先生、圭介はちゃんと学校生活送れてますか?家では学校のこと、ほとんど話してくれないので。」
「あ、そうなんですか。まぁどちらかといえば寡黙な方かもしれませんね。でも授業中の発言はとっても面白いです。的確だったりするときもあれば、素朴な疑問そのものだったりもして。」

美樹は保護者との面談が好きだ。子供のことをよく知れるからという意味でもそうだが、自分が見ている子供像と親が見ている子供像のずれや一致が様々にあって、それそのものが面白いと思えるからというのが一番の理由になっている気がする。

「圭介に友達いますか?」
「んー…そうですね、あまりベタベタするのは好きじゃないかもしれません。でも、それで本人が困っているような節は見受けられません。1人でいることも好むのかなぁとも思います。あ、でもご心配なさらずに!ちゃんと協力すべきところでは協力してますよ。」

保護者の悩みは尽きない。それは子供に興味関心が強くあるからこそだと美樹は思う。悲しいことに子供に無関心な親は少なくない。それに、子供を見ていれば親のことは大体わかる。

「お疲れ、東先生。」
「あー…深山先生、お疲れ様です。今日はもう終わりですか?」
「あと1人かな。東先生は?」
「私今日はもう終わりですよ。職員室で涼みます…。」
「うわー!羨ましい!」

教室に向かう深山の背を見送り、美樹は階段をおりる。
美樹は2年、深山が3年、藤澤が4年だ。美樹は2階で深山と藤澤は3階に教室がある。階が上がるごとに気温が上がるのが悲しいところである。

「お疲れ様です!」
「お疲れ様です。もう終わったの?」
「はい、今日は終わりです。」
「上手く話せた?」
「人と話すの好きですよ。」
「…それ、今の私の質問に対して適切な答えだったかなぁ?」

藤澤とはかなり打ち解け、藤澤の方から話しかけてくることも多くなった。もちろん美樹の方から話しかけることもあるし、くだらない話をすることも増えた。
藤澤とよく話すようになってわかったことが幾つかある。
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