mariage
5.愛する者を守る為
…閉まってしまったエレベーターのドアを思い切り叩いた。

…俺は、琴乃に出会ったその日から、ずっと琴乃が好きだった。

やっと手に入れたのに、直ぐにこの手から砂のようにこぼれ落ちる。

まだ話せない。全てが終わるまで、琴乃にも話せない。

全ての事情を知っているのは、大路と琴乃の父だけだ。

あと少しで、全ては終わるというのに、真実を話せるというのに、琴乃は俺から離れて行ってしまった。

「…社長」

大路が心配そうな面持ちで俺を見る。

「…悪いな。大路に心配をかけるつもりはなかったのだが」

「…なぜ真実を話さないのですか?理由もわからず、相手を信じるには、二人の時間があまりに短すぎると思いませんか?」

大路の言葉は最もだ。俺と琴乃はまだ信じ合える程の時間は、短すぎる。

だが、今しばらくは話せない。
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