花の鎖・蝶の棘



一日の仕事を終え、外の空気を吸えば今日も充実した日だったと実感出来る。
でも、辺りは薄暗くて、ポツポツと街灯の明かりが灯り始めていた。


コツコツとヒールを鳴らしながら帰路につく。残念ながら、仕事の後の予定を埋めてくれるような相手はいない。



正確に言うと、今はーー



ここ数年、仕事に打ち込んで業績を積み得た今の地位。年齢にしてはスピード出世と言われ今に至る。

次々と後輩が出来る度に今日みたいな事があった。どうやら私には年下の男が寄り付くようだ。



飛び抜けて美人、という訳ではない。
同僚曰く、リーダーシップの強さと近寄り難い雰囲気がある。そのくせ、一つ壁を越えれば面倒みのよさがよく分かって後輩にはたまらん!
らしい……





『果乃はしっかりしてるから、大丈夫だろ?』


嫌なフレーズが頭をよぎる。


ふと足を止め、ショーウィンドウに映る自分を見つめた。
少しだけ疲れた顔をしている自分に溜め息が出る。



かっちりとしたパンツスーツにヒールのパンプス。少しだけブラウンに染めた長い髪を、これまたかっちりまとめ上げていた。

私の心には隙がない。

そう、今は仕事にだけ打ち込んでいればいい……




『果乃と居るとさ、俺って必要ないんじゃないかな?って思えるんだよな。そーいうの、惨めで耐えらんないわ。』



過去は振り返らないって決めたんだ。


カツンカツンとヒールを鳴らして再び歩き出す。頬をパチンと軽く叩いて、唇をかたく結んだ。



明日は休日。少しだけ飲んで帰ろうーー


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