長い春にさよならを
「そうだよね。ごはん、温めようか? チキンのソテーとスープもあるよ」

 美晴はフェイスタオルで髪を拭きながら言った。

「あー、自分でやるよ。美晴だって仕事で疲れてるだろ? 先に寝てていいよ」

 貴幸が美晴の前を素通りしてダイニングに向かった。

「温めるくらいだから、いいよ、起きてるよ」

 美晴が声かけると、貴幸が首を振った。

「いいって。温めるくらいなら俺でもできる。ほら、もうすぐ日付も変わるし、美晴はおやすみ」

 貴幸が言った。そう言われたら仕方がない。一人になりたいのかな、と思ったとたん、美晴の心に寂しさが込み上げてきた。その気持ちを気取られないよう、低い声で「わかった」とつぶやき、パジャマを着た。歯磨きをして髪を乾かし、ベッドルームに入る。用意したプレゼントのことを思い出すと、涙が浮かびそうになった。

(クリスマスプレゼントなんて、そんな習慣、私たちの間ではとっくになくなってたのに。バカみたい)

 ベッドに潜り込んで、悲しみを追い出そうとギュッと目を閉じた。幸いにも、勤務先のアパレルショップで忙しく働いたからか、疲れた体はすぐに眠りに落ちた。
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