明日へ馳せる思い出のカケラ
第17話 惨雨のファミレス
『ブーン、ブーン』

 携帯のバイブレーションによる振動で目を覚ます。
 どうやら俺はいつの間にか眠っていたらしい。

 重く感じる体を起こし、少し離れたテーブルの上に置いた携帯に手を伸ばす。

 ただ腕に感じる怠さ加減は異常とも言えるほどに重苦しい。
 やはり君と再会した昨日の印象が、俺の体に対して過度に影響を及ぼしたんだろう。
 でも俺は携帯に映し出された着信相手の表示を見てハッとしたんだ。

 俺は簡単な勘違いをしていた。
 いつも携帯を目覚まし代わりに使っていたから、もうバイトに行かなければいけない時間なのかと思ったんだ。
 生憎の雨模様のため、陽が陰っていたのも災いしたんだろう。

 でも窓の外から差し込む明りは昼間のものに違いない。
 横殴りの雨が激しく窓ガラスを叩くかしましい音を耳にしながら、俺は携帯の通話ボタンを押した。

「よう、久しぶりだな。相変わらず根暗に生きてんのか?」

 電話の向こうからよく知った男気のある声がこだまして来る。

 まったく、こんな時間になんだっていうんだ。
 眠い目を擦りながら俺は座椅子に腰掛け直す。
 寝起きのせいで頭が上手く働かない。それもあってか俺はなかなか電話相手に受け答えする事が出来ずにいた。

 ただ電話の相手は俺のそんな状態をまるで見ているかの様に想像し得ていたんだろう。
 その証拠に電話の向こうからは大きな高笑いが聞こえて来た。

 冗談じゃないぜ。昨日あんな事があったばかりだっていうのに、こんな時に限ってこいつから連絡があるなんて、まったく何の因果なのか理解に苦しむよ。

 俺は大きく溜息を溢す。面倒臭いと感じたんだろうね。
 それでも相手に対して拒絶感を抱いたかと問われれば、それは違うと言わざるを得ないだろう。
 だって電話の主は俺にとって唯一の【友人】と呼べる存在だったのだからね。

 そう、電話の向こうにいるのは、学生時代に陸上部のキャプテンを務めていた彼だったんだ。

 腐れ縁と呼ぶには差し出がましい。
 俺なんかと違い、彼は真っ当な社会人として活躍する存在なんだからね。

 ただどういうわけか、彼は大学を卒業した後もしばしば俺と連絡を取り合い、付き合いを続けてくれていたんだ。
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