明日へ馳せる思い出のカケラ
 まったくふざけてるよ。いくらなんでも君は謝り過ぎなんだよね。
 俺は現状から逃げる口実を述べているだけで、君に落ち度はまるでないんだ。謝る必要なんて、これっぽっちも無いんだよ。

 それに本来なら、その『ごめん』て言葉を告げるべきなのは俺の方なんだよね。

 つい数時間前の事さ。キャプテンだった彼と話し、その中で当時の君が抱えた苦悩を知らされた。そして俺はその痛ましさを十分に理解したはずなんだ。

 君に対して申し訳ないって、心の底から感じていたはずなんだよ。
 それなのに俺は君に冷たい態度しか取る事が出来ず、謝罪の言葉を伝える事が出来なかったんだ。

 やっぱり俺なんて、生きてる価値ゼロなんだろう。いや、それ以前に俺が生まれてこなければ、君はその貴重な人生の中で無意味な心の傷を負う必要もなかったんだ。
 そして今回も俺はその傷に塩を塗るほどのつれない態度を取ってしまった。

 これじゃまるで俺は、君を苦しめる為だけに存在してるとしか思えないじゃないか。

 クソっ。もう立ってなんかいられないよ。
 俺にはもう生きる意味が見つけられないよ。
 もう自分自身を嫌う事しか出来ないよ。

 溢れ出て来る涙を堪えるだけで精一杯だった。
 もちろん仕事なんて続けられるはずがない。俺は体調不良を理由にしてバイトの早退を願い出た。

 あまりにも酷い顔に見えたのだろうか。店長は心配そうに俺の体調を気遣ってくれた。
 でも俺はそれに愛想笑いの一つも返せなかった。

 一刻も早く家に帰りたい。早く一人になりたい。――いや、違う。もう誰もいない世界に行きたかった。もう二度と誰とも口を利きたくなかったんだ。

 俺は当て所なく夜の街をさまよい歩く。はっきりとした意識も無いまま、俺はただ闇雲に街をさすらったんだ。
 まるで大海原を漂流する小舟の様にね。

 するとそんな俺の頭に冷たい雨粒が一滴だけ降り注いだんだ。

「冷てぇなぁ……」

 運命だけじゃなくて、天気までもが俺に冷たく当たるのか。俺はそんなにも許し難い大罪を犯してしまったって言うのか。

 だとしたら俺はどうやってその罪を償えばいいのか。どうすれば許してもらえるんだ。どれだけこの暗い道を這いつくばれば、光に手が届くというのだろうか。
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