明日へ馳せる思い出のカケラ
「チッ、何なんだよコイツ。気持ち悪りぃからこのへんで終わりにしようぜ」

 彼らの中の一人が言う。すると他の二人もそれに同調して暴行を終わらせた。
 ただ単に殴り疲れただけなのかも知れない。けど少なくとも彼らが俺に対して只ならない嫌悪感を覚えたのは確かな様だった。

 その証拠に一人が口早に吐き捨てる。

「イカれてるぜコイツ。こんだけ痛めつけられてんのに、妙な顔しやがって。これ以上やったら夢にまで出て来そうだから、もう行こうぜ」

 そうつぶやいた彼は、そのまま振り向き歩き出した。そしてそれにもう一人が続く。
 ただ大通りで最初に俺と接触した青年だけはその場に居残った。そしてその彼は倒れたままの俺にさっと近づく。
 すると次の瞬間、彼は俺のズボンのポケットから財布を抜き取ったんだ。

「こいつは慰謝料兼授業料ってことで貰っとくぜ」

 そう言って彼は俺の財布から紙幣のみを抜き去った。そして空っぽになった財布だけを俺に向けて投げ捨てる。更には唾まで俺の顔面に向けて吐き捨てたんだ。

 人間ていう生き物は、これ程まで非道になり切れるものなのだろうか。俺は彼を見てそう思った。

 でもどうしてだろう。その時俺が垣間見た彼の目からは、どこか寂しげな印象も受け取ったんだよね――。

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