明日へ馳せる思い出のカケラ
第11話 呆気ない幕切れ
 7月も半ばを過ぎた頃。

 大学4年になった俺は就職活動の最前線に立たされていた。
 そして初めて肌身で感じる社会という現実に、俺の精神状態は追い詰められていたんだ。

 やっぱり俺って男は社会ってものを甘く見ていたんだろうね。
 世間では就職氷河期だなんて言って、学生の就職難が取り沙汰されている。それでも自分ならばさほど手間を掛ける事なく、就職出来ると思っていたんだよ。

 根拠なんてどこにも無い。それどころか社会に対する信念や希望すら持ち合わせてもいない。
 それなのに俺がタカを括っていられたのは、初めから会社選びを放棄していたからなんだ。

 俺にはこれと言ってやりたい仕事が無かったからね。
 だから就職さえ出来ればどこでも良い。そう思っていたんだよ。

 初めから就職先へのハードルを下げる事で、簡単に就職戦線から離脱出来る。そう甘い考えを巡らしていたんだろう。
 要は競争を嫌う俺の性格がゆえに、少しでも早く気持ちを楽にしたいだけだったんだ。

 それが将来を決める大切なレースより身を引いてしまう行為なんだって事は、それなりに理解はしていた。
 でもそれは俺自身の責任であって、誰に文句を垂れる訳でもない。ハンパな覚悟だけど、その事についてはそれなりに自分でも考えはしていたんだよ。

 でもいざ就職活動を始めると、その厳しさを痛感せざるを得なかった。いや、違うか。相手のハードルを下げたつもりが、それと同時に自分自身の価値をも下落させてしまったんだ。

 会社側の目だって節穴じゃないんだ。
 目的意識も無く、ただ漠然と就職がしたいだけの俺なんて、採用するはずもないんだよね。
 それに何処でもいいなんて思っておきながら、俺は結局のところ給料面や福利厚生面で高望みしていたんだよ。
 やっぱり就職するからには、ここは譲れないよなって感じにね。

 そんな俺は就職難に嘆く学生の典型的な悪いパターンに陥ってしまったんだ。
 そして周囲の友人達は、俺をあざ笑うかの様にして次々と就職先を決めていく。

 それでもまだ、現状を把握して冷静な対応が取れていたならば、俺は救われていただろう。
 いくら就職氷河期と言えども、就職先がまったく無いわけじゃないんだからね。でも焦りと憤りで疲弊する俺の心に、それを望むのは無理だったんだ。

 今になって思えば、たとえ就職先が何処でも良かれ、相手にそれなりの気概を見せられていたならば、あるいは当初の思惑通りに就職活動は事なきを得ていたのかも知れない。
 でもそれに俺が気付いた時にはもう、全てが遅かったんだ。

 そして終わりは唐突に訪れる。それも呆気ないほどにね。
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