明日へ馳せる思い出のカケラ
第14話 裏切りの代償
 時が経つのは早いモンだ。最近は切実にそう感じられずにはいられない。

 今という一瞬だけはやたらと長く感じているのに、気がつけばそれは過去という時間軸に刻まれた化石に変わり果てている。

 何一つ代わり映えの無い生活。毎日が単調で同じ事の繰り返し。
 そんな日常が時間の経過を途轍もなく早く感じさせる要因なんだろう。

 かろうじて季節の変化くらいは気付けるけど、身近な曜日感覚なんかは怪しくて仕方がない。

 さらに付け加えれば、昼夜が逆転した暮らしを続ける影響もあるんだろう。
 やっぱり人っていう生き物は、陽の光によって目覚め、月が昇る頃に眠りに落ちるのが普通なんだよね。

 そしてそんな生活が人の本来持つべき感覚を培っていくんだよ。
 だからそれと真逆の生活を送る俺の感覚は狂ってしまった。壊れてしまったんだ。――って思いたいんだけど、それは少し違うのかな。


 確かに世間一般でいうところの普通の生活とは正反対な生き方をしている。
 でも俺はむしろ自分からそんな暮らしを望み、そして実際に身を投じたんだ。

 誰に強いられたわけでもない、自分自身の意志でね。
 それに体調は至って健康だし、風邪なんて最後にひいたのかはいつだったのか思い出せもしない。

 だから時間の経過をやけに早く感じる本質は、俺の感覚的な因子でもなく、また肉体的な要素から来るものでもないんだよね。

 あの日、あの瞬間に俺の時間は止まってしまった。
 なにをバカな話しをしているんだって失笑するかも知れないけどね、でも俺にとっては大真面目な話なんだよ。

 もちろん生きている限り時間は進んでいく。
 だけど俺の心は遠い過去から一歩たりとも進めていないんだ。

 あの日、君が走り去ったあの瞬間からね。

 だから俺の心の時間は止まったままなんだよ。
 要は俺だけを置いてきぼりにして時間は相も変わらず進んでいく。それが正解なんだよね。

 俺は胸の内でその答えを明確に把握出来ていたからこそ、あえてこんな暮らしを望んだんだ。
 ううん、俺はそんな暮らしに逃げ込んだんだよ。他人との接触を避けたいが為だけにね。

 俺だけが取り残されている。
 そんな居た堪れない感覚に心が支配されているからこそ、俺は孤独に焦がれそれを欲したんだ。

 人並みの生活をしていたら、嫌でも周囲の人達と自分を比較してしまうからね。
 そして手っ取り早くそんな状況から脱するには、孤独に逃げ込むしかなかったんだよ。
 いや、少なくとも俺にはそれしか考えられなかったんだ。
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