ディスペア
(12)~私にくれた沢山の幸せ~
逃亡するのならすべて捨てなければならない。
家族も、勉強も、友達も…
リュックに入ってる家族の写真。
夜な夜なしてた勉強。
友達がくれたというキーホルダー。
優人はなにも捨てきれていない。
でも、もう全部捨てたって自分に言い聞かせて私の為に笑顔を作った。
それはきっととても辛いことだったろう。

………もう、十分だよ。

私は優人に優しさをもらった。
大きな愛をもらった。
つかの間の幸せをもらった。

………もう、十分だよ。

こんなに沢山のものをもらったのに、優人の幸せを奪うわけにはいかない。
今ならまだ間にあう。
今引き返せばきっと間にあう。

優人を……解放してあげなくちゃ。


ずいぶん長い時間電車に乗った。
駅を出て、歩き出した優人を引き止める。

「山の中に入らなくても、この辺でいいんじゃない?」

もう、帰ろう。
その言葉は、喉につっかえて出てこなかった。


次が最後だ。
私は次に警察に見つかった時、この逃亡生活に終止符を打つ。
そんな日が、来なければいいと何度も、何度も思った。
でも、これは私なりのけじめだ。
この誓いを私は絶対に破らない。
そう、決めていた。




“次”は無情にもすぐに来た。

でも、予想どうりだった気もする。
パトカーが5台も止まっている。
優人が警察の息子ということもあって、結構な大事になっている。
ここに来るのも時間の問題だろう。
優人は私の手をひいて逃げようとした。
私はここに踏みとどまる。
そして、覚悟を決めた瞳で彼を見つめる。
彼も私を見た。
彼の目が言わないでと叫んでいる。
私は心の中で切なく笑った。
私はいつも優人の“言わないで”を無視するね。

「優人……終わろう。」

彼は悲しそうにしたその目をそっと閉じた。
何も言わない。
でも、私たちにはそれだけでよかった。

優人が目を開けた。
私と優人はしばらく見つめ合った。
伝えたいことがありすぎて、何も言えなくなった。
ごちゃごちゃの頭の中から一言ずつ言葉を引き出す。

「………………好きだよ。」

声を出した瞬間、私の目から涙が溢れた。

「ちゃんと……人、好きになれたよ………!」

優人のおかげなんだよ!

「ありがとう…………ありがとっ……うぅ……!」

今まで本当にありがとう。
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