ディスペア
(6)~背を向けたのは~
これで、最後なの?
もう会えないの?

最後は笑っていてほしい。

だから……………

「待って!」

彼が振り返る。
こらえていたはずの涙が溢れる。

「私、人のこと嫌いにならないから。」

「あのね、人の力って凄いんだよ!?私の左足どんどん黒くなるばかりだったのに、優人に会ってから治ってきたんだよ?」

「段々痛みもひいてきてっ……うぅ……!」

「もう、だいぶ普通に歩けるようになったんだよ………!」

「だから……だから………」

ありがとうと、そう言いたい。
でも、言い終わったら彼は帰ってしまう。
だから、言いたくない。

「…っ…好きなのにぃ……大好きなのに~」

こんなに人を好きになったのは初めてなのに。
さよならなんて……できない………っ!
 顔を上げると私の目の前に優人がいた。
涙でぼやけた瞳のなかに、彼の幻覚を見るなんて………

「麻彩ちゃん、逃げよう。」

……………え?

「僕、カッコ悪いね。一度背を向けたのに戻ってくるなんて………。」

話が理解できない。

「でも僕は、麻彩と離れたくない。」

「え…………ぇえ?」

「君のことが好きだから。」

わからない。
背を向けたのは君なのに……。
でも、それでも……嬉しい。

「二人で逃げよう!」

「………逃げる?ってどこに………?」

「この町から出ていこう。誰も知らない場所に行こう!」

 「二人で自由になるんだ。」

そう言って、優人は私の目を見る。
罪のない君を私は巻き込んでしまうことになる。
今度は君が罵声を浴びせられるかもしれない。
今ならまだ、間に合う。
優人は私とは一緒にいない方がいい。
そんなことはわかってる。
それでも私は………

「うん。」

君のそばにいたい。
そう思った。
私って自分勝手だな………
でも、そんな私を選んでくれる君がいる。
こんなに心強いことはない。
君が大好き。
カッコ悪くなんかない。
覚悟を決めた君は、世界一格好いい。


 私たちはここでひとつになる。
そして、目の前の大きな闇を見つめる。
そこにあるのは地獄。
入ればきっと、後戻りは出来ない。
私たちは、一歩踏み出す。
まっすぐ前を向いて………


       さあ、堕ちよう。
    ……………二人で……………
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