図書恋ーー返却期限なしの恋ーー
 ふしぎな物語だった。

 ある日少年は、森にある一本のリンゴの木を見つける。木の枝に座ると心地よくて、良い香りがした。そこで眠ることが好きだった。

 リンゴの木がまっしろな花を咲かせると、その花のきれいさに心が驚く。自分のものにしたいと思った。
 赤く色づいた果実はおいしそうで、そっと齧ると甘酸っぱかった。そして少年は、自分がリンゴの木に恋をしていたことを知る。

 あるとき自分の不注意でリンゴの花が枯れてしまい、真っ赤だったリンゴは黒くなってしまう。少年は深く後悔して、答えることのない木にむかって、何度も語りかける。

 ごめんね、大好きだよ。
 だれよりも、ずっとずっと、大好きだよ。
 
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