これも恋と呼んでいいのか

高卒で地方から就職で出てきたが、3年で会社が倒産してしまったらしい。


かといって田舎に帰るのも嫌で、いろいろ探しているうちに、この土地に行き着いたと聞いた。


給料も知れているが、社員として住み込みで雇えると言ったが、本人の希望で掛け持ちでアルバイトをして家賃を稼いでいるようだ。


郊外のローカル線の駅前にあるこの店は小規模なもので、同じ棟続きの小さな商店街の一角にある。


ただ、本屋の仕事は想像するほど楽ではない。


朝の8時半。シャッターの前に山積みされた新刊本を中に入れるところから始まる。


ビニールに纏めて入れられた雑誌は梱包用ナイロンテープで縛られている。


手の油分水分すべてを取られ、冬場はとくに軍手をしないと手を切ることもある。


節を切りやすく、絆創膏を貼ってもあまり意味がない。


週刊誌、僅かながらの新刊本、客注品、などが入荷する。週刊誌とひと括りに言っても、毎日違う種類の雑誌が入る。


覚えるのも一苦労だ。


「これはここでいいんですか?」


「そうですよ」


もう一人、こちらは入社5年の早坂ゆきが、丁寧に教える。


ゆきは30歳で、アパレル系から転職してきた。短めの髪は茶髪で化粧から服装も、やや派手な印象だ。


旦那は左官業で、子供が二人いた。そのせいか物腰は柔らかい。

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