翼をなくした天使達
照れ隠しなのかなんなのか、また蒼井はスタスタと歩き出した。その背中を見ながら私は小さな声で言った。
「……蒼井の世界も変わってたら良かったね」
ここは私の都合のいい世界。
私にとって嫌だった人達が変わっても蒼井の嫌だった人達は変わってない。学校も家族も現実とそのまま。
もしここが蒼井にとっても都合のいい世界になってたら、今回の事件は起きなかったはず。
むしろ一匹オオカミなんかじゃなくて学校が楽しいと思える場所になっていたかもしれないのに。
「いいよ俺は」
……だよね。こんな事言っても今さら仕方がないのは分かってる。
「いいって言ったのはその必要がないって意味だからな」
「え?」
「周りが変わるのを待つじゃなくて自分が変わった方が早いんじゃねーかって、お前を見て思った」
不適に微笑む顔。ドキッと胸がざついた。
蒼井がなんか、なんか急に変な事言うから……
「ほ、褒めてんの?それ」
今度は私がはや歩きになって蒼井を追い越す。
「褒めてない。ただやっぱすげー奴だなって思ってるだけ」
……それって褒めてんじゃないの?まだ胸がソワソワしてて言い返せないけど。
するといつの間にか蒼井が追い付いてきて私の頭を2回叩いた。
「俺は誰も信じないけどお前の事なら信じてもいいと思ったよ、ちょっとだけな」
あれ、なんだかまた泣きそう。
「さ、最後のちょっとだけは別にいらないんじゃない?」
「うるせーよ馬鹿」
「じゃ、バナナクレープ奢って。昨日食べ損なったから」
「調子乗ってんじゃねーよ」
「いたたたたっ!」
気付くと私達は同じ歩幅で歩いてた。