翼をなくした天使達



「はぁ……」

ため息を3回ついた。

私はとりあえず教室の前まで来たけどなかなかドアを開ける事が出来ない。中からはいつもの騒がしい声が漏れていて〝もしも゛の事を考えると胃が痛い。

こんな事をしてても仕方がないし、私は意を決してガラガラッとドアを開けた。

その瞬間、騒がしかった声がシーンとなって心臓が激しく鼓動した。

もしかしたらそうなってるかもしれないと想像はしていたけど、まさか本当に…………


「ちょっと勢いよくドアが開いたからびっくりしたじゃん!」

ワッと元に戻る教室。

「今日ホームルームいなかったけど遅刻?早く席着かないと古典のジジィ来るよ。あいつ年寄りのくせに超口うるさいし」

最初に話しかけてきたのは沙織だった。表情も口調もいつも通りで変わった事はない。

……もしかしてなにもない?

ってかゆーか美保が言わなかったのかもしれない。

いつもなら真っ先に寄ってくる美保は自分の机でスマホを触っている。「美保……」と声をかけようとしたけど、すぐに古典の先生が来てしまった。

「席に着いてない人は遅刻扱いにしますよー」

私は急いで席に向かうと橋本さんと目が合った。

橋本さんはニコリと笑って軽く私にお辞儀をした。私はわずかに口角を上げるだけでちゃんと応える事はできなかった。

………あいつの言う通りだ。

みんなの前では助ける事も声をかける事も笑う事さえ出来ないくせに。

橋本さんが可哀想で気の毒だからと昨日は助けたけれど、あんなのは正義でもなんでもない。

ただの自己満足だ。


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