それでも僕が憶えているから



《2》


地上を電車が走り抜けていく。

その音と振動がコンクリートの天井越しに伝わり、やがて遠ざかると、地下通路は廃墟のように静まり返った。

鼓膜に直接響く胸の鼓動。それはわたしのものなのか、彼のものなのか。


『俺を選んでほしい』


さっきの言葉も、この抱擁も……何が起きているのかわからない。

呆然と立ち尽くしていると、後ろから抱きしめる蒼ちゃんの両腕に力がこもった。

指が腕に食いこむほど強く。だけど、けっして痛くはないやさしさで。


「……俺が前に進もうって決意できたのは、真緒に出逢ったからなんだ。秘密を知っても真緒は離れずにいてくれた。だから俺も、もう現実から逃げたくない。真緒の前で胸を張って生きられる自分になりたいから」


今、自らの足で立ち上がろうとし始めた蒼ちゃんを、きっとわたしは応援してあげるべきなのだろう。

なのに感情がまとまらない。心が全然ついていかない。
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