それでも僕が憶えているから



《3》


どんよりと暗く分厚い雲が、生き物のようにうごめきながら空を覆っていく。

強さを増す風に煽られて、雨粒がフロントガラスを叩いた。

高速道路をひた走るレンタカーの車内。

さっきからわたしと蒼ちゃんのスマホがひっきりなしに鳴っているのは、おそらく凪さんからの着信だろう。


「出たければ出ていいのよ。その代わり、運転の保証はできないけど」


冗談とも思えない口調で福田のぶえが言った。この状況でスマホを手に取るわけにもいかず、着信音だけが虚しく響き続けている。

わたしはフロントミラーに映る福田のぶえをにらみつけた。
あと少しで萩尾さんの元にたどり着くと思ったのに、こんなことになるなんて……。


規則正しいウィンカーの音が響き、車が高速道路を降りて行く。いつのまにか東京を出て他県に突入していたらしい。


「どこに連れて行く気ですか?」

「わざわざ聞かなくても、そっちの彼はわかっているみたいだけど」


せせら笑うように言われ、隣の蒼ちゃんを見る。その顔があまりにも真っ青だったので、わたしは息をのんだ。
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