それでも僕が憶えているから



《4》


小さい頃から、わたしは人の喜ぶ顔を見るのが好きな子だったと思う。


『真緒、また百点とったのか?』

『うんっ』

『えらいなー』


小学校のテストでいい点数をとると、いつもお父さんは頭をなでてくれた。

褒められたことよりもお父さんが喜んでくれたことが嬉しくて、わたしは勉強を人一倍がんばった。


『お母さん、肩叩いてあげるね』

『ありがとう、真緒』


人の喜ぶ顔が嬉しいのと同時に、疲れている顔や、落ちこんでいる顔も敏感に察知した。

そんなときでもわたしが明るく接すれば、お母さんはいつも笑ってくれた。

だけど両親が離婚して、おじいちゃんと暮らすようになって。


『お前らはこの家に住ませてもらってるんだ。それを忘れるな』


いつしかわたしは、喜ぶ顔を見るためじゃなく、おじいちゃんの怒った顔や、お母さんの苦しそうな顔を見ないために、自分の心を殺すようになっていったんだ。




……なぜ、こんなことを思い出しているんだろう。

朦朧とする意識の中、そう思った。

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