リリー・ソング
さすがに深夜の恋人である秋穂さんは、私たちが兄妹であることを知っている。
美山深夜のバックアップを前面には押し出さず、"孤高の歌姫"で私を売る、というのが事務所の社長が決めた方針で、今のところ社長と榎木さん、秋穂さんしか知らない。
だけど、深夜もこうしてちょこちょこメディアに露出しているし、容姿が似ている以上、いつまでも隠し通せることでもないと私は思っている。
それは社長も同じみたいだけれど、バラすのは、あるいはバレるのは、もう少し後、私が不動の地位を築いてからと考えているようだ。
「…じゃあ私、失礼します。」
深夜は笑って何も言わないし、なんとなく気まずくなって私は逃げるようにしてスタジオを出た。
茶化して言ったように聞こえるシスコン、という声に、棘が含まれているのに気づかないわけにはいかなかった。
私はたぶん、秋穂さんによく思われてはいない。
大人だから感じよく振る舞ってくれるけれど、私を手放そうとしない深夜に対しても苛立っているし、深夜から離れようともしない私のことも好きではないはずだ。
そういうことが言葉の端々から伝わる。
こういう時、長い間忘れていた息苦しさを覚える。
早く一人で膝を抱えて丸まりたい。
楽屋までの白い廊下が、果てしなく長く感じた。
「おっと!」
ピンク色のラメで輝く歩きづらいピンヒールの靴がもつれた。
ちょうど目の前のドアが開いて伸びてきた手が私の腕を掴んでくれて、転ばずにすんだ。
「あ、すみません、ありがとうございます…」
助かった。ミニワンピースを着てるのに膝に青痣なんか作ったら大変だ。
「大丈夫? …あれ、可愛い、ネコ耳だ。リリーさん?」
「え?」
うわっ。
髪がシルバーだ。びっくりした。