リリー・ソング

「リリーさんは今やウチの立派な稼ぎ頭ですから。お陰様で僕らもいい飯食わせてもらってます。リリーさんはもっとふんぞり返っていていいんですよ。」
「…そんな…」

私は小さくなって俯いた。
ふんぞり返るなんて、怖い。今でさえ自分がどこに居るのかわからなくなりそうなのに。

「最近ちょっと疲れてるんじゃないですか。デビューからバンバン売れて現実感なかっただろうけど、周りが少しずつ見えてきて、わけわからなくなる時期ですよ。ストレス溜まっても無理ないです。リフレッシュしたほうがいいですよ。」
「…お休みは、ちゃんともらってるし…」

そもそも、深夜が曲を書かない限り、基本的には私に仕事はない。毎日毎日テレビに出ているわけでも、コンサートをしているわけでもないし。

「うーん…少し音楽から…というか、深夜さんと離れてみるのもいいかもしれないですね。」
「……」

嘘でしょう?
今更、深夜と離れる気なんてない。
ーーたとえそれが、息詰まるばかりだとしても。

一言も発していないのに、榎木さんはそんな思いが聞こえたように笑った。

「時間、空いちゃいましたから。打ち合わせがてら、お茶でもしましょうか。」
「はい。」

好きに生きている。
リフレッシュなんて必要ない。

そう思うけど、確かに、私たちは何かを間違えている。

だけどボタンを掛け違えたからと言って、それを一つずつ取り外して戻るわけにはいかない。
多くの大人が私たちのその心もとない道すじに沿って、仕事をしている。


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