ばくだん凛ちゃん
「お兄さん、ありがとうございます」

ハルちゃんは慌ててこちらにやって来た。

食事を始めて10分。

「ハルさん、もういいの?」

ダイニングから母さんの悲鳴にも近い声が聞こえた。

「はい、ありがとうございます」

ハルちゃんは母さんの方に向いて頭を下げるとこちらを向く。

「…痩せた?」

頬が痩けてる。

「あまり、実感はないです」

目の下にもクマが出来てますよ。

「本当にありがとうございました」

ハルちゃんが手を差し出すので渡した。
が、凛ちゃんのグズりがますます激しくなる。

「凛〜、どうしたの?」

ハルちゃんの困った顔。
今にも泣きそうになっている。
些細な事でも過敏になっているんだろうな。

「ハルちゃん」

僕はもう一度、手を差し出した。

「そんなに肩肘張らなくても良いよ。
お母さんがそんな顔をしていたら赤ちゃんは心配するよ。
まだ目が見えない分、感覚は研ぎ澄まされている。
凛ちゃんはね、お母さんの気持ちを代弁しているんだ」

ハルちゃんは目に涙を溜めて、凛ちゃんを僕に渡す。

「母さんや桃ちゃんは時間が許す限り、ハルちゃんを助けてくれるし、不安な事も全部ぶちまけたら良い。
話をして楽になるなら、いつでも話し相手になるよ。
…ハルちゃん、透には自分の本音を伝えた事がないでしょ?」

ハルちゃんは俯いてポロポロ涙を溢した。

「透はね、いくら忙しくてもいつでもハルちゃんの不満を受け止める器を持っているから。
何かあれば透にぶつけて良いんだよ。
それでも透に言いづらいなら、僕や桃ちゃんが聞くから」

その瞬間、再び凛ちゃんの泣き声が響いた。

僕はよしよし、とあやす。

お母さんの代わりに声を上げているんだね。

「凛ちゃん、もう少し待ってね。
お母さんもね、まだまだ凛ちゃんとお父さんと3人の生活に慣れないんだ。
少し、お母さんの気持ちをスッキリさせてあげて」

立ち上がってあやすとやがて凛ちゃんはフニャフニャ言いながら欠伸をした。

もうすぐしたら寝るな。

ハルちゃんが泣き止むまで僕は凛ちゃんを抱っこし続けた。
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