ばくだん凛ちゃん
「う〜、う〜!」

凛の声が聞こえる。
私と透はゆっくりと凛を見た。
タオルケットの上で足をバタバタさせている凛。
こちらを見て、笑っている。

「凛もわかるんだよね」

透は凛を抱っこする。

「お父さんとお母さんが仲良く話をしていたら嬉しいんだよね。
喧嘩をしていたら悲しいんだよねえ」

だいぶ首がしっかりしてきているのか、透は縦抱きにしてそっと首に当てていた手を少しだけ放した。

「うん、良い感じだね」

父と娘は向かい合い、ニコニコしている。

「凛はね、特に感受性が強い子だと思うから気を付けたほうがいいよ。
色々とわかるようになってきたらハルの顔色を窺うようになると思う、この子」

微笑みながら透は言うけれど目は笑っていなかった。

「僕も精いっぱいの努力はする。
ハルも、出来るだけこの子には心配を掛けないようにしてあげて。
僕が望むのはその点だけ」

あ。
そうなんだ。
透は多分、凛を通して幼いころの自分を見つめている。

「うん、わかった」

その言葉でようやく透の目が微笑んだ。
そしてそのまま、凛に視線を移動させると

「凛、お父さんと一緒にお風呂に入ろうか。
たまにはお母さんと入らなくてもいいだろ?」

凛はニコニコ笑っている。

「今日は僕が入れるよ。
その間、少しでもゆっくりしていて」

透は私の肩をポンと叩いた。



本当に貴方は優しい。
ただ、その優しさが仇にならなければいいけれど。
バスルームに入っていく透と凛と見つめながら大きくため息をついた。

時々、私は深くて暗い闇に陥る。
透のその優しさで自爆するんじゃないかと。
家でも私があまりにも不安定なので常に優しく接してくれる。
本当はクタクタで早く眠りたいはずなのに。
私もしっかりしないと、と思うのに、ついつい透の優しさに甘えてしまう。
いや、透の方が何枚も上手だからそんな考えなど完全に見抜いて私の事を優先させてしまうのかもしれない。

その隙のなさも気になる。

この4月から、病院も掛け持ちするし。
透の精神力は並大抵じゃないと病院関係の皆さんは仰るけれど、それは周りが作り上げた透という虚像じゃないのかな。

本当は…本当の透は…。

バスルームから呼び出し音が聞こえて我に返る。
私は凛のバスタオルを持って、バスルームに向かった。
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