大人の初恋
3 相手は上司
4月1日ーー

ヤバイ、マジでヤバイ。


私は今、猛烈に走っている。


 地下鉄の構内の雑踏を縫うように抜けていく。田舎からこっちに出てきて早9年、今ではものすごい速度で進むことができる。

 年度変わりの1日目、主任の私が初日から遅刻だなんて、イイ笑い種じゃあないか!

 チラッと時間を確認する。

 ……始業開始の5分前には何とか5Fのフロアまで辿り着けそうだ。

 ヨシ、イケる!
 私は一気に加速した。


 そもそも10分前行動が信条の私が、ナゼ遅刻ギリギリで走っているかというと……

 何もこの前みたいに遅くまでヤケ酒をしていたワケじゃない。


 昨日のことだ。
 年度末最後の日だって言うのに、すっトボけたうちのおジイちゃん部長が、

『コレ、明日までに上げといてネ』

 終業寸前に、しれっとボイスレコーダーを私のデスクに置き、脱兎の如く去っていったせいなのだ。

 見れば再生時間はナンと2時間。

 お陰で私はほぼ貫徹、今朝のコンディションはお肌ガタガタ、髪バサバサ。

 だからちょっと遅れたって…せいぜいアイツに逆に文句を言ってやるくらいの気持ちもある。
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