せめて、もう一度だけ
10時少し前にコンビニについたら、クラクションが聞こえた。


そっちの方を見ると、青いスポーツカーの運転席で手を振っている田辺さんがいた。


スポーツカー、乗るの初めてだ。


「おはよ」


「おはようございます」


田辺さんはわざわざ車を降りて、助手席のドアを開けてくれた。


茶髪に作業着姿しか見たことなかったから、私服はどうなんだろうって思ったけど、カーキのパーカーにベージュのコーデュロイパンツにスニーカーっていう、ごくごく普通の服装だった。


「すみません」


「飲み物とかいる?」


「いえ、特には」


「ま、そんなに遠出はしないけどな」


そのまま、車を走らせた。


うちの車と全然違う加速スピードに戸惑ったけれど、すぐに慣れた。



「あの、どこへ行くんですか?」


「ヒミツ。


ミキさ、その敬語やめろよな、仮にも年上だろ」


「仮にもって、仮じゃないです」


「ダンナにも敬語なわけ?」


「そんなことはないですけど」


「じゃあ俺にも普通に話せるだろ」


「でもまだ、知り合ったばかりですし」


「じゃ、今日の目標な」


「目標、ですか?」


「俺とタメ口で話せってこと」



< 14 / 109 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop