せめて、もう一度だけ
まだ夕方だったけど。


田辺さんは、待ち合わせしたコンビニまで送ってくれた。


帰りの車中は、あまり会話もなくて。


高校生のようなキスのあと、お互いに照れてしまい、そのまま車は走り出した。


途中、私は田辺さんの告白が純粋に嬉しかったことを伝えたくて。


赤信号で停まった時、田辺さんがギアレバーにのせていた左手に、そっと私の右手を重ねた。


言葉ではうまく伝えられそうになかったから、私の精一杯の意思表示だった。


伝わったかどうかはわからないけど。



お弁当箱を返してもらい、


「じゃあまた、月曜日に」


「俺、月曜休みだけど」


「あっそうか、ごめん」


「ミキは抜けてるよな」


キスの前に調子が戻った私たちは、初めてのデートを終えた。



お互い大人なんだから、夕方に解散するなんて珍しいと思うけど。


私たちはまだ、始まったばかりだったから。



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