せめて、もう一度だけ
走ってゆく
月曜日の朝。


今日は、諒のお弁当だけ作る。


『作らない』という選択肢もあったけれど、最低限やらなきゃいけないことのような気がして、遼くんには悪いけど、適当に作った。


「いってきます」


「いってらっしゃい」


昨日の夜の話が嘘みたいに、いつも通りの言葉を交わす。


だけど、昨晩はあれから話さずに眠ってしまったし、今朝も『おはよう』って挨拶しただけ。


こんな生活で、諒はいいと思ってるんだろうか。


私には耐えられそうにない。



諒が出ていってから、私は改めてエプロンをつけて、今朝焼いたパンをスライスしてサンドイッチを作った。


遼くんは何でも食べてくれるけど、見た目に似合わず甘めの味つけが好みで。


少し砂糖を多めにした厚焼き卵とベーコンとレタスをはさんでカットして、容器に詰めた。


たいしたことじゃないけど、遼くんだけのことを想いながらゴハンを作るのが、幸せ。



お気に入りのワンピースに袖を通して、左手薬指の指輪をはずした。


結婚以来、はずしたことはほとんどないはず。


軽くなった気がする左手をながめながら、指輪がないことに遼くんが気づいてくれるか、少し楽しみだった。



戸締まりをして、自転車に乗って遼くんのアパートに向かった。



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