ビター・アンド・スイート
「まずは、私どもの作っているものをお召し上がりください。」と城田さんが言って、
私が用意したお皿とフォークを使う。
家族はみんな集まっている。
これはもちろん私が協力しているという、意思表示だ。
家族分の『美咲』を取り分け、お皿を渡していく。
「綺麗だねえ。」と祖母が声を出し、私の顔を笑って見る。
きっと、そこに正座している背の高い自信たっぷりに見える男が
バツイチ29歳の孫の
新しい恋人だって思っているんだろう。

かなりのフライングというか、
付き合ってもいませんけど。
と思う。

おじいちゃんと、父と兄は『美咲』を口にし、
ちょっと黙る。
おじいちゃんが風間さんの顔を見る。
「繊細な味だな。」と感心した声をだす。
「ありがとうございます。」と風間さんが微笑む。
「ちょっとニッキが使ってあるか。」とおじいちゃんが言うと、
「ああ、やっぱり、凄いですね。今までに当てた者はいませんでした。」と風間さんが笑う。
おじいちゃんはわかりやすく
「まだ、若い者には負けん。」とニコニコした。

「で、なんだ?」と城田さんの顔を見る。
「この菓子は温度管理が難しく、デパ地下では十分に皆様にご提供することが出来ません。
僕等は、山下公園の通りに、店舗を構えたいと思っています。
この付近の信頼できる不動産屋をご紹介いただけないかと
三吉屋のさんのお口添えがいただけないかと、お願いに参りました。」と頭を下げた。
「ふうん。口添えか。結構、頭の古いヤツだな。」と兄が笑う。
「私どもは、三吉屋のさんのように世間の信用はございません。
お口添えいただけませんか?」ともう一度頭を下げる。
「この、『美咲』って名前は?」と兄が聞く。
「妻の名前です。」と風間さんが微笑んで、隣で座っている美咲さんの顔を赤くした。
「ステキぃ。」とヤヨイが口を出す。
「なるほど。妻の名前ねえ。」と兄はニヤニヤする。
そんな事は今は良いから。
「どう?おじいちゃん?」と私が聞くと、
「まあ、この洋菓子を作った君らを信用しよう。」とおじいちゃんは私の顔を見た。


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