恋は理屈じゃない

結婚披露宴会場を後にする招待客を、新郎新婦が見送る。ハイウエストに切り替えがあるエンパイヤシルエットのウエディングドレス姿のお姉ちゃんは、天使のように美しい。そして、その手に握られている私が作った胡蝶蘭のキャスケードブーケは優雅でボリュームがあり、ふっくらとしてきたお姉ちゃんのお腹を上品にカバーしていた。

「鞠花ちゃん、目が赤いわね。お姉さんの結婚式に感動しちゃった?」

結婚披露宴が無事に終わり、私より十歳年上のいとこの恵子お姉さんに聞かれる。

「うん。お姉ちゃん、すごく綺麗だったから……」

私の目が赤い本当の理由は、速水副社長に失恋してトイレで泣いたせい。そんなことなど知らない恵子お姉さんは、テンション高く話を続けた。

「そうね。今度は鞠花ちゃんの番ね」

「……私はいつになるかわからないよ」

「またまた、そんなこと言っちゃって。彼氏はいるんでしょ?」

失恋した傷口に塩を塗るような言葉を、立て続けに口にする恵子お姉さんを恨めしく思う。けれど、彼女はなにも知らないのだから仕方ない。

「今はいないの」

「あら、そうなの? でも鞠花ちゃんはかわいいからすぐに彼氏できるって。その時は私にも紹介してね」

「う、うん」

恵子お姉さんは私の肩をポンと叩くと、うちの母親のもとに向かった。ホッと胸をなで下ろすと、結婚披露宴会場を出たフロアで速水副社長と視線が合う。

きっと私、いつもの癖で無意識のうちに速水副社長を目で追っているんだ。もう、こういうことも終わりにしないといけないんだよね……。

急いで速水副社長から視線を逸らすと親族のもとに向かい、雑談に加わったのだった。

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