クラッカーにはご用心
「うちは子供らに、ありきたりでもええから幸せやったと言える人生を送って欲しかったんや。」



自分には幸せという意味は分からなくても、施設が必要な人生はありふれた平凡などではないのだから。



「やから、うちが子供らの分まで裏でやればええと思おてた。」



蜜穿の正常性バイアスは、叡執によって膨れ上がり強調されていき認識さえ無くなった。



「けど、あんたと出会おてな、それだけやあかんて感じるようになってしもうた。」



苦く笑う蜜穿の頭の隅にずっと残っていたのは、殊犂が栲袴に言った言葉。



「あんたはうちに固執しとったけど、うちの存在がないとしてもあんたが生きてるだけで良かった。」



だから、遠ざけた。



殊犂との未来を描いた遠い夢など、叶わないと思ったから。



だけど、絶望が教えてくれてた希望は。



「だんだん、あんたの人生にはうちがいて欲しいて、あんたと生きていきたいて思うようになった。」



自分が想う分だけ、殊犂にも想って欲しい。


いつの間にか、一方的では満足出来なくなって欲張りになって。



自らの意思で叶えようと思ったのは、殊犂の隣で日々を過ごす近しい未来。
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