クラッカーにはご用心
「……………。」



リビングの脇にあるソファーで寝る殊犂を見つめる。


昼間寝たからソファーでいいと言ったのだが、押し問答になった為蜜穿がベッドを使うと折れたのだ。





曇りの無い純粋な目で裏の世界を見透かして、真実に近付く殊犂を遠ざけることでしか、引きずり込まれないよう守る術を蜜穿は知らない。



好きだと言った殊犂の真剣な目に、叡執は明日まで帰って来ないのだから今日だけはと、言うことを聞いた。



好意を理解出来ても、正解の無い選択肢しか残されていないのならば。




殊犂の優しさを痛みに変えて、


殊犂の叫びを切り捨てて、


一瞬だけ思い描いた夢を壊してでも、



狂った予定調和に無慈悲に従って別れを誘おう。




蜜穿は、なおされていた鍵を持ち、悲しく告げる。



「お巡りさん、ありがとうな。……けど、さよならや。」



殊犂を起こさないように静かに出て、鍵を新聞受けに入れて。



自分の居なければならない場所へと、蜜穿は戻っていく。





歪んで歪んで、


歪みに耐えきれなくなって堕ちた世界は、



蜜穿の目に残酷過ぎるほど、


とても美しく映るものだった。
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