欲情プール

「茉歩っ!」


不意に。
力強く腕を引かれて、雨の当たらない場所に動かされた。


「何でこんなっ…!」


こんなバカな事を…
ショックを受けてると解ってても、そう思ったんだろう。


気付けばびしょ濡れになって佇んでた私は、周りから見ればきっと異様な光景で。

クールな私、らしからぬ行動だったと思う。



「…離して下さい。

人前です…」


雨を払うように私の身体を摩りながら、覗き込んで来た慧剛から…
俯けてる顔を背けて、逃れようとすると。


「いいからこっちを向いてくれっ」

強引に顎を持ち上げられる。



「っ…!

泣いて、るのか?」


いつしかそれは、溢れてて。



「…雨です」


「……っっ!

悪かった茉歩、俺はっ…」

「雨ですっ…!

それと。
先方を待たせてしまいます…

早く、行って下さい」


無意味に握り締めてた傘を差し出すと…
時計を映す姿が視界に入る。



「っっ…


…すまなかった」


ポツリと零して。

傘を受け取った慧剛は、タクシーに乗り込んだ。


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