古い校舎が見える桜の木の下で
1.10年ぶりの再会
俺はちょうど、長野にある祖母が住む町に来ていた。
祖母は3年前から病気がちだ。
おばあちゃん子だった俺は時々、祖母を訪ね、見舞う。

祖母のいるこの町は、生まれてから
中学3年まで過ごしたところでもある。
昔、このあたりは賑やかだった。

かつて、この町には大手自動車メーカーの工場があった。
俺の父親はそこで働いていた。
ところが、不景気の波に飲み込まれ、
俺が中学2年のときに1年後の工場閉鎖の話が出た。
俺の家族もそうだったが、
その工場で働いていた人たちは、転職をするか、
系列の別工場への転勤をするかの選択を迫られていた。
俺の父は、東京の工場への転勤となり、
俺たち一家は俺が中学を卒業するとすぐに引越した。

たぶん、あの工場が閉鎖になったときが
人口流出のピークだったと思うが、
その後も人口が減り、
俺が通っていた中学校も今年、近隣の学校と合併した。

廃校となった校舎は古いこともあって、
取り壊しが決まっていた。
壊される前に思い出の場所をもう一度見ておきたいと思い、
東京へ帰る前に母校に立ち寄ったのだった。
< 2 / 57 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop