古い校舎が見える桜の木の下で
9.旅立ちのとき
3月。俺の赴任先は山間部の小さな中学校と決まった。
ばあちゃんのところから車で1時間30分くらいかかる。
全校生徒が28名。まだ詳しくは知らないが、
この人数じゃサッカー部があるかどうかは微妙だ。
まぁ、遊びでもなんでも子供たちとサッカーがやれればよしとしよう。

歩にさっそくこのことを連絡した。

「もしもし、歩?」

「うん。」

「俺の赴任先が決まった。山間部のM町の中学校。
ばあちゃんちからだと車で1時間30分くらいかかるところ。」

「そうなんだ。浩太が前に言ってたように長野や松本じゃないんだね。」

「あぁ。アパートなんてのもないから、下宿することになりそうだよ。」

「新しい生活に慣れるためにそれも仕方ないんじゃない?」

「お前冷たいな。下宿だとお前を気軽に呼べないじゃん。」

「そうだね。
でも、仕事がないときはおばあちゃんちっていうか
実家っていうかに来るんでしょ。」

「あぁ、そのつもり。」

「じゃあ、そんなに心配しないで。」

「ん?」

「あのね、私も実家に戻ることにしたの。
前にあったときに話したライターの件、
おもしろそうな企画だって認めてくださった編集班があって、
そこで書かせてもらえることになったの。
だから、実家に戻って、在宅ワークで原稿書いて、
あとバイトしてって思っている。
うちの両親も年をとってきて、心細いみたいだし。」
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