興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−
「レディーファーストってやつをしてみるか。さあ、どうぞ」

「すみません、…何だか。有難うございます。では、お邪魔します」

ドアを開けてくれた助手席に乗り込む。これが仕事なら、開けてもらう事も無く、お互いが乗り込む感じなんだろうな。
カチッとお互いにシートベルトを嵌めた。

「さてと。出発進行…」

「きゅうりのお新香、ですかね」

「お、流石、藍原。先に言われてしまったな~」

「フフフ、すいません、…つい、言いたくなって」

「俺も言うんだ、ついな?」

車は駐車場をゆっくりと後にした。


出て暫くは静かだった。
昨日の話の続きなんて…。今は出来ない。ご飯を食べている時にだって言えない。食べられなくなるかも知れない。
ううん、一緒に居られなくなるかも知れない。
そもそも、そんな話をする為に誘われたご飯じゃない。気分良く終わらせないと。
上司と部下の関係は、明日からも続いていくのだから。
…課長、続きはと言っていた事、忘れてくれていたらいいのに。

「そんな遠く無いから直ぐに着く、大丈夫だ。緊張するな、ん?」

あ。反射的に首をすくめた。ワシャワシャと頭を撫でられた。私はショートボブなので何の問題も無く元に戻る。
課長…。この動作は、子供さんにしてあげているモノなのかも知れないな…。
ご褒美とか、不安解消とか、合わせてされてる気がする。きっと、そうだ。
車の中で静かになってしまったから、気を配ってくれたのだ。

「藍原…」

「あ、はい?」

「あー、いや…店に着いてからにしよう」

「…はい?」


「あ、あそこだ。待ってくれよ…。近くのパーキングに入るから」

「はい」

シフトをバックに入れた。ピー、ピー…。
これは…腕を回された。車をバックさせる時、男の人が助手席のヘッド辺りに手を置き、後ろを見ながらする動作。まさにこれは女の人がドキドキする男性の仕草、らしい…。
目線は後ろでも、顔は直ぐ近くにある。

もう…、何故、今頃こんなシチュエーションに出くわしてしまうのよ…。
これは、課長とのいい思い出として頂いておこう…。

「お~し、OKだ。…ん?どうした?」

「あ、いえ。何でもありません。気にしないでください」

何だか恥ずかしくなって俯き加減になっていた。
だって、そのままで居たら、課長が顔を戻す時に目が合ってしまいそうだったから。
きっと無意識に自分からだって見てしまいそうだもの。
私自身、顔も赤くなりそうだし、ドキドキが増してしまいそうだから。

やはり…こんな近くで、チラチラとしか見られないけれど、やっぱり…男前です。鼻筋も通っていて高い。情けない…どうしてもドキドキしてしまう。今更、こんな…色んなシチュエーションを体験させてもらうなんて…。はぁ、……虚しくて堪らないのに。
仕方ないです、課長という存在を認知しただけでドキドキしてしまいます。暫くはまだ仕方ないです。
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