興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−

何だか良く解らないけど、聞けば私を見込んで頼んでくれたような…気がする。
うん。課長の為にも少しでも早く、ミス無く、仕上げないと。
正確に早くよ。

慌てたような、お先に失礼しますという声があちこちであがる。
週末だ。約束した時間が迫っているのかも知れない。
やっぱりデートかなぁ。ご飯食べて彼の部屋にお泊りしちゃうとか。
あ、家族サービスの為っていうのもあるか。
それはそれであったかい感じがしていいな。

……集中、集中。

カタカタ…。

何だか、自分の席から放たれるキータッチの音しか聞こえなくなって来たような気もするなぁ。
あ、でも…まだ男性社員は居るには居るのか。
あー、駄目駄目。余計な事を考えていては、ミスタッチが増えてしまう。

カタカタ…。
後1枚。
カタカタ…。
後5行。
3、…2、…1。

出来た。よし、プリントアウトよ。
複合機に近付き印刷されるのを待つ。

…出来た。
入力間違いは無い、はず。

「課長、お待たせしました。出来ました」

「お、出来たか。チェックするぞ。…うん、…うん…うん。…よし、OKだ。サンキュー、藍原。
俺、ちょっと部長のところに行って来るよ」

「あ、は、はい」

…何…これ。よしよし、みたいに頭をワシャワシャされた。
…ま、人って、日頃やり慣れている事が、ついウッカリ出ちゃう、みたいな事もあるから…。誰かの頭をね。…それも、比較的若い子………て、これ、なるよね。………居るのかも知れないな、彼女…。

課長、余程、急ぎの物だったのね。
多分だけど、本当は自分でやるつもりだったのだろう。
突然舞い込む仕事もあるし、他の書類も多そうだし、中々思い通りには行きませんもんね。
う〜ん、イタタタ。急に伸びをすると痛いな。
…さて。私も、今度こそ、片付けて帰るとするかな。
課長から声を掛けられた時点で、ほぼ片付けていたから、後はパソコンを閉じるだけね。
……う~んと時間のかかる書類だったら、この後でご飯行くかって、言ってくれてたかな、……なんて、ね。諦めきれない虚しい妄想は止めましょう。と。
パソコン…OK、ね。では帰りましょう。

「お先に失礼します」

「あ、遅くまでお疲れ」

「お疲れ様、今からデートか?いいよなぁ…余裕で待たせてるのか?」

「いや…ハハハ…ありません。お疲れ様でした」

「またまた…お疲れ」

…もう。ないってば。

「気をつけて帰れよ」

「はい、有り難うございます」

……ふぅ。…本当に…。誰も待たせてませんて。



「藍原〜。あれ、藍原は?」

「あ、課長。さっき…5分くらい前ですかね。それ程前じゃないですが、帰りましたよ」

「そ、っか…」

そうか…帰ってしまったのか。
< 7 / 166 >

この作品をシェア

pagetop