興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−
今一だったか…。まあ、まだ情緒は不安定だよな。
ソファーの前に並んで座った。

「藍原はどれがいいんだ?」

「私は…ん〜まずこれ、ティラミス」

手に取って置いた。粉がカップの蓋に飛んでいた。そこは指摘する余裕がないらしい。

「じゃあ、俺がティラミス」

それを自分の前にスライドさせた。

「えー、ずるい、聞いておいてずるいです」

蓋を開けた。

「やるとは言ってない。もう俺が貰った物だろ?藍原、うちに来た時、あげますって言って俺に押し付けたじゃん。だから、所有権は俺にあるんだ。
……はい、あ~んして。食べたいなら一口やるから」

ビニールに入っていた小さなスプーンを突き出すように強引に取り出し掬って見せた。

「あ、もう掬ってる。そうでしたけど…なんだか誤魔化された感じです、聞いておいて、やっぱりずるい」

「じゃあ要らないんだな、…だったら、俺が…」

自分の口に近づけた。

「あ~、…駄目です。それは私の分…」

腕を掴まれた。

「あ、じゃあ、ほら。はい、あ~ん…」

小さく開けた口にスプーンを入れた。

「どうだ?格別美味いだろ」

「…美味しいです、普通に。これで珈琲飲むと、また美味しい」

「フ。そうか、そうだな…」

「坂本さんは?どれが好き?」

「フ、魂胆は解ってるぞ。聞いて横取りするつもりだろ?残念でした。後は別にどれを食べられないからって、悔しいなんてならないから」

「えー、…そんなぁ」

「やっぱりな。ま、藍原が好きなの食べてくれ」

「えー、だから一番はティラミスだったのに…」

「まあまあ…。一口食べただろ?」

「納得出来ません」

「解った、今度買って来るから、な?今日は大人になってくれ。はい、ぶーたれない」

「解りました…絶対ですよ?」

「ああ、絶対だ」

「約束ですよ?」

「ああ、ハハ。約束する。美味いヤツ買ってくるから、な?」

「じゃあ許してあげます。あ、買って来た時、また取ったりしないでくださいね?」

「ハハッ。解ってるよ。それじゃ買って来る意味が無い。
あ、藍原…、ココアの粉、ここに付いてるぞ」

口の端を指して教えた。

「え?…ゔ。散々難癖を付けていたのに。
…こんな物付けて言ってたなんて…どの口が言ってるんだ、ですね。…恥ずかしい」

どこって感じで、藍原が人差し指で落としてもまだ残っていたから、俺は顎に手を当て親指で軽く払った。

「…この口だ…」

あ…、…え?!坂本さん?

先に唇の端に舌が触れ、首を傾げ食まれた。

「…ん。…ちょっと苦くて………甘い。かな。これで俺、前科三犯か…」
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