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晴は捕虫網というものと虫かごを持って立ち上がる。

さながら、夏休みの小学生みたいなスタイルだけど、これでもれっきとした大学生なのだ。

「桜子さん、行きましょ」

「は?」

「え?」

行かないの?みたいな顔をされた。

「わ、私は行かないよ?」

「え?」

じゃあなんで来たの?みたいな顔をされた。

「ほら、このへんにもちょうちょとかいるし! 私はそういうの見てるから。それに、読みたい本もあるの。こういうところで読むのも気持ちいいからさ。晴、行っておいでよ」

バッグから取り出した読みかけの小説を取り出して見せると、晴は、うん!と大きくうなづいた。

「じゃあ、虫いっぱい捕ってきてあげますね」

晴は納得したようににっこり笑うと、土手の方に軽やかに駆けていく。

その後ろ姿から、もうわくわくしているのが伝わってきて、本当に子どもみたいだなぁと半ば呆れてみていると、数メートルのところで急に立ち止まった。

そのまま、くるりときびすを返してたったっと戻ってくる。

「忘れ物ー?」

私が大きな声で聞くと、晴は首を横に振って私のそばまで戻ってくると、腰に巻いていたシャツをほどいて、芝生にひらりと広げた。

「敷くもの、持ってきてなかったから、桜子さん、この上にでも座っててください」

それだけ言うと、晴はさっきと同じ足取りでまた土手に向かって走っていって、あっという間に背の高い草むらの中に消えてしまった。

残された私は、芝生の上に広げられた紺色のタータンチェックのシャツの上でそっと体操座りをしてみる。

緑色の芝生、水色の空、視線の先の草むらがたまにがさがさと動くのが分かる。
晴はしばらく戻ってこないだろう。

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