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『桜子さんと行きたいところがあるんですが』

晴はそう言った。
行きたいところとはどこなのだろう。
桜子さんと、というのはどういう意味なのだろう。
大学からの帰り道、マンションまでの道をゆっくり歩きながら、考えるのはそのことばかりだ。
夕方の空には、白い月が昇っている。

昼間、学食で言われてから、そのことばかりが頭の中をずっとループしている。
ぼんやりとしすぎて、朝乗ってきた自転車を大学に忘れて歩いて帰ってきてしまったのだから、動揺していることを認めざるを得ない。

デートだったらどうなの?
デートじゃなかったらどうだって言うの?
そもそも晴のことだもの。
なんにも考えてなんかいない。
晴の頭の中は、いつだって虫でいっぱいなんだから。
なのに。

これはデートなのかなとか、どういう気持ちで誘ったのだろうとか。

私は、晴のことばかり考えている。

恋……?
私が、晴に恋をしている?

「ないない」

思わず声に出してしまった。

「なにが『ない』の?」

肩をちょん、とつつかれて振り返ると、くすくすと笑うケイタと目が合った。
半年前に別れた私の元彼。
同じ大学だから、こうして会うことは珍しくないし、私たちは『円満』かつ『穏便』に別れたものだから、今でもよく話す。
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