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博物館を出た頃にはもう夕方になっていた。

放蝶温室になんと三時間もいたのだ。
あんな蝶々だらけの場所によくそんなに長い時間いられたものだと思う。

私と晴はとてもお腹がすいていて、とりあえず目についたファーストフード店で遅すぎるお昼ご飯を食べることにした。

「さっきの放蝶温室で、一番多く飛んでいた蝶々、わかりますか?」

ハンバーガーを早々に食べ終えた晴が、ポテトを食べながら私に質問した。

「水色のやつ? 黒い模様の?」

晴はそうそう、と首を縦に振り「アサギマダラ」と言った。

「アサギマダラ?」

「季節によって旅をするんですよ。アサギマダラは」

渡り鳥みたい。
私がつぶやくと、晴はにっこりと笑った。

「そう。渡り鳥みたいに、夏になると北に。冬になると南に国境も海も越えて飛んでいくんです」

海を越えて。

青い海の上を、水色の蝶々が太陽の光をあびてひらひらと舞う。

「きれいだね。きっと」

「どうやって個体が移動したかを調べるために、翅(はね)に誰がいつどこで捕まえたか書いてまた飛ばす調査があるんです。マーキング調査っていって、研究者だけじゃなくこどもたちも参加してみんなでやるんですよ」

ポテトも食べ終えた晴に、自分のポテトをすすめながら、その調査、少しだけ楽しそうなんて、思ったのはきっと気のせいだ。
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