夢を忘れた眠り姫
zzz zzz zzz…
「永井さん。これ、販売企画課に運んでくれる?」


出勤し、朝のミーティングが終わった後、小ぶりの段ボール箱を抱えながら係長が私のデスクに近付いて来た。


「透明のクリアファイル100枚、新しいのが欲しいって依頼があったんだ。あそこは尋常じゃない量の資料を取り扱うから、劣化が激しいんだよね」


言いながら彼は箱を一旦私のデスク上に置いた。


「そんで、古い方を回収して来てもらいたいんだ。ちゃんとまとめてあるらしいから。後でこっちで選別して、あまりにもヨレヨレなのは破棄、まだ大丈夫そうなのは社内の資料保管用としてストックしておいて」

「はい、分かりました」

「で、どうする?これ。このまま持ってく?それとも台車使う?」

「あ、これくらいなら手で大丈夫です」


私は笑顔で答えた。

実際どうってことないし。

クリアファイルは一枚がとても薄く軽量なので、100枚集まったとしても大した嵩、重量にはならない。

箱の大きさもちょうど持ちやすいサイズだし。

か弱い演技はやり過ぎるとおっとりふんわりではなくぶりっこでウザイ感じになってしまうから、ポイントを間違えないようにしないとね。


「じゃ、行って来ます」

「ああ、気を付けて」


係長に見送られながら私は箱を難なく持ち上げ、庶務課を後にした。

そのままさっさか歩を進め、二階下の販売部まで階段で移動する。
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