春うらら
春うららかな日和
*****



「おはようございます!」

いつもどおり勢いよく、朝の挨拶をしたら、会社内の雰囲気は最悪だった。

……死屍累々ってこんな感じ?

「あれー。皆さんどうしましたか? 朝から暗いですよ」

すぐそこのデスクから、目を真っ赤にした橋元さんがゆらりと立ち上がる。

橋元さんて男性社員の中でも背が高いから、見下ろされるとメチャメチャ怖いんだけど、今は目が真っ赤だからなおさら迫力が……。

「そこの派遣……」

「はい。確かに派遣ですが、ちゃんと新見瑠璃子って名前があります!」

「うるさい」

うるさいとか言われた!

「お前はとりあえず、死亡してる奴らの人数分のコーヒー買って来い」

そう言いつつ、彼は面倒くさそうにお財布から一万円札を取り出し、渡してくれる。

わぁ~。太っ腹! いや、本人はスリムだけどさ。

「お駄賃にお菓子買ってもいいですか?」

「いいわけねえだろ、バカヤロウ」

「私、野郎じゃないです」

とても冷たい視線を返されて、慌ててデスクに突っ伏している人たちの人数を数え始めた。

今日の皆さんは、お疲れモードなんですねー。まぁ、わからないでもないんですけど。

そんなに大きくもない広告代理店。
毎月毎月、カツカツで仕事をしているのに、ゴールデンウィークに突入する会社もあり、前倒し、後回し、たらい回しを駆使して、皆残業続きだ。

ゴールデンウィークなんて『あほんだら』とか言っていたのは橋元さんだったかなぁ。

皆、ゴールデンウィーク中辛うじてある、印刷所の唯一の営業日を狙って仕事を間に合わせようとして……。

たぶん、これは徹夜したんだよね。
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