雫に溺れて甘く香る
「惚れてるって言ってんだろ。好きに決まってるじゃないか」

「好きって言葉が大事なの。わかってるんでしょ?」

続木さんは笑顔を引っ込めて、それからじっと私を見下ろした。


「よくわかる」


……そうだね。やっぱり“好き”っていう“言葉”は大切なんだと思う。


それはまだ、私が続木さんに告げていない言葉でもあるよね。


「好きよ。わかってると思うけど」

囁くように告げると、彼は深く息を吐きながら、ぎゅっと私を抱きしめ直した。

「わかっていても、言われたいもんだろ?」

「お互い様でしょ」

「まぁな」

そう言うと、彼は私の膝をさらって持ち上げ、お姫様抱っこのように座らせられる。

「……や。これは恥ずかしいかな」

「慣れるんだな」

言いながら、いつの間にか手からこぼれ落ちていた雑誌を持たされた。

「とりあえず、すぐに買うとか、そういう話にはならないと思うが、少しは前向きに考えられるか?」

……唐突に話を戻しやがりましたね?

「うーん。こういうのってもっと先だと思っていたから、私は全然考えてなかったよ」

「そうだな。俺らの年代でもあまりいないだろうな。ただ、将来的にこうしたいって考えるのは悪いことじゃない。荒唐無稽なことだとしても」

「将来の夢ってやつだね。夢は大きくとか、よく言うもんね。続木さんが夢見がちな人だって、そんなん全然想像もつかなかったけど」

言いながらパラパラと雑誌をめくると、暖かみのある家から、スタイリッシュな家まで様々あるみたい。

しばらくそれを眺めていたら、黙り込んだ彼に気がついた。
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