雫に溺れて甘く香る
続木さんたちの店はカフェバーだから、そこそこ夜遅くまで営業しているんだろうけど……。

まわりが閑散としてしまうと、ちょっとやりにくいのかもね。

考えていたら、続木さんが信号を眺めながら唇の端を上げた。

「本当に遅いな」

……それはいつもの事なんだけどさ。

「うん。ここも大きな通りだし。だからもういいってば」

「……じゃ、青になったら戻る」

律儀だなぁ。……って言うか、とても雨の日に『あんた邪魔』呼ばわりした人と同一人物とも思えないな。

二人で無言になって、ただ黙って信号を眺める。

続木さんは、確かに篠原さんより無口かもしれない。

最低限、彼ならポツリポツリくらいには口を開くよね。

考えていたら、ふわりと風が吹いて、髪を乱していくから手で押さえた。

この辺りはビル風も凄いから……。

そう思っていたら、不思議そうに私を見下ろしていた続木さんに気がつく。

「……どうかした?」

「あんた、いい匂いだな」

……に、匂い。匂いですか?

なんだろう、シャンプーの匂い?

それとも毎朝つけてる香水の匂い?

そもそも、女の匂いを褒めるなんて、あんたはどんな神経してるんだ!

でもこれって褒められた……わけなんだけど。

髪を押さえたままで固まっていると、信号が赤から青に切り替わる。

「じゃあ。気を付けて帰れよ」

「う、うん」

何事もなかったかのように片手を上げて、そのまま帰っていく続木さんの背中を見送って……。

それからピヨピヨ聞こえる信号に気がついてせかせかと通りを渡った。


……おかしい。何がおかしいって私が。

匂い嗅がれて喜んじゃう私って、絶対に頭おかしいよー!









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