雫に溺れて甘く香る
溜め息で忘れる
*****



あれからまた、一週間たった週末の金曜日。

営業には、たまに接待も含まれる。

個室なんて選んじゃった上に、お酒が入ると我が出てくるなんてのは誰しも当たり前の話。

若い人ならそうでもないんだけど、そこそこ年配の人が相手だと、たまにちょっとだけ妙な事になる。


「おい、そこの姉ちゃん」


まぁね? 姉ちゃん呼ばわりでニヤニヤしているおっさんに、笑顔でお酌なんて慣れてますよ。

でも、ベタベタと手を触られると嫌な気分になるのは、女としては当たり前だからね?

「工藤と申します。ビールが足りなくなりそうですので、伝えてまいりますね」

笑顔を貼り付けたまま、するっと席を抜けてビールを注文して戻ると、ご機嫌になって有頂天のおっさんの隣には、うちの男子営業部員がついて話し込んでいる。

よし。これで少しは解放された。


「すみません工藤さん。うちの部長はいい人なんですが、酒が入ると……」

向こうの社の人がコッソリと申し訳なさそうにしているので、またまた笑顔を貼り付けた。

「大丈夫です。楽しんでいただければ、当社としても嬉しく思います」

私は嬉しくないけどねー。

今日の私は営業補佐だから、接待を頼まれた時にどうせこんな事だろうと思っていたし。

のらりくらりとご機嫌部長の手をかわしながら、どうにかその気分のままでタクシー乗っていただいてお見送り。

「じゃ、また契約の時に」

なんて上機嫌の言葉も頂いて、彼らの乗ったタクシーを笑顔で眺める。

それが見えなくなると、同僚を睨み付けた。
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