雫に溺れて甘く香る
細い煙が、カウンターの少し抑えられた照明に照らされ、流れてくるくると形を変えて霧散していく。

なんとなく、それが綺麗だ。

「ああ、悪い」

続木さんはそう言って煙を手で払うから、それに苦笑を返した。

「ううん、別に。うちの営業部員はヘビースモーカーばかりだし。気にならないから。それに貴方、けっこう仕事中も吸ってるよね?」

煙草の匂いだとは気づかなかったけど、続木さんがカウンターに立っている時には同じ臭いがするし。

余裕の笑みを返すと、続木さんの唇の端がクッと片方だけ上がった。

「女は煙草の煙を嫌がるもんじゃねーの?」

「それって私が女らしくないとでも言うつもり?」

小さく笑ってカクテルを飲み干すと、立ち上がってから財布を取り出す。

「お会計お願いしまーす」

「え? もう帰るの?」

篠原さんがそう言って、微かに困ったように私と続木さんを見るから、それに続木さんも気がついて顔をしかめた。

「俺が来たからか?」

「馬鹿じゃないの? 明日の朝が早いことを思い出したってだけでしょ。少し自意識過剰」

「いや。イキナリだと思って……」

「あんたと一緒で、ヘビースモーカーの先輩と、明日朝イチで外回りだって思い出したって言えばいい?」

続木さんはチラッと指に挟んだ煙草を眺め、それからどこか遠くを見るような目をする。

「そっか。じゃ、明日」

普通に挨拶されて目を剥いた。

「毎日来てる訳じゃないんだけど!」

「一日置きなら、毎日と似たようなものですよ」

篠原さんが呟いて伝票を出してくれたから、なんだか納得はしないけど、お会計を済ませてから店を出た。
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